企業の経営戦略を策定する際に重要とされる「現状分析」ですが、ただ情報を収集したり改善策を考えたりすることが「現状分析した」と誤解されがちです。
この記事では、現状分析の本質を理解し、本来の現状分析が正しく行えるようわかりやすい単語を使ってかみ砕いて説明していきます。
現状分析とは? 意味や英語表記を簡単に紹介
「現状分析」とは|現状を把握し課題抽出すること
ビジネスの場における「現状分析」とは、現在の自分たちが置かれている位置を正しく理解し、その上で今ある問題点を整理したり把握したりして洗い出します。ここまでくると、「現状分析」が完了した。と誤解してしまう方も少なくはないのですが、ここからが本番です。現状の運営の問題点が明らかになった状態で、今後の運営の課題(力をいれるべきこと項)に向かって進むことが可能となります。
また、課題が複数ある場合は、重要度や優先順位を設定して進めることが重要です。数値化した「明確な課題」を設定し、誰もが共通認識を持てることが大切です。
企業・経営にとって現状分析が重要である理由
例えば大海原を航海するとき、目的地を定めるには現状を知る必要があります。今の位置情報の把握、今後の天候や海上の様子、目的地までの距離等、様々な情報を得て、今どうすべきかを考え、時には今来た道を引き返す判断をすることも必要です。
それには今までの経験から「こう動くと、結果はこうなる」という見通しを立てて考えましょう。この見通しこそ、次の目的地を決めるための大きな判断材料になります。企業の運営においても同じことが言えます。経験に応じて立つ見通しを軸に、未来を予測しながら運営することが、「現状分析」を行う最大の理由なのです。
現状分析を行う前に知っておきたい「外部環境」「内部環境」
外部環境とは|意味・例
外部環境とは企業を取り巻く環境のうち、運営に影響を与える要素のことです。自社ではコントロールすることが不可能なものが大半を占め、法律や人口動態、市場環境や顧客動向等が挙げられます。
例えば、新製品をリリースする場合は、それが市場のトレンドから逸脱していたり、顧客のニーズを捉えていなかったりしたとき、当然ながらその新製品の売上は伸び悩むでしょう。また、働き方改革の施行で人件費が増加したり、新型コロナウイルスの流行で売上が減少したりすることも運営に大きく影響する、外部環境と言えます。
内部環境とは|意味・例
内部環境とは自社に関する情報のことです。企業が保有している資産や市場での立ち位置、何ができて何を得意としているか等、ヒト・モノ・カネ等の情報が挙げられます。自社でコントロールすることが可能です。
例えば、すばらしい戦略を考案できたとしても、推進する人がいない。採用難で人材不足である。社内の高齢化が進み、後進の育成がすすまない。新製品開発のための予算がない等は内部環境と言えます。
現状分析の方法として有効な「フレームワーク」とは
フレームワークとは、ひと言でいえば「思考の枠組み」です。経験者が経験と勘で長年培ってきたものを人に伝えるのはほぼ不可能と言えます。フレームワークは考え方や手順がフォーマット化されているため、順序立てて考えることで思考にブレがなく的確かつスムーズに解答にたどり着くことができます。
また、思考を図式化することで複数人で考えたり、プレゼンテーションしたりする場ではとても有効です。こうして見える化(マニュアル化)することで、たくさんの人に伝えることも可能となります。「現状分析」を考える上で、「抜け漏れがなく、重複なく、網羅的に」情報を整理できるフレームワークは最も適切な手段と言えます。
現状分析に効果的|主なフレームワーク10選
①SWOT分析
SWOT分析とは、経営戦略や計画の現状分析を行う際によく使われ、使用される機会が非常に多いフレームワークです。自社の内部環境と外部環境の分析を行うことで、将来のビジネスチャンスとリスクを整理し、具体的なアクションプランの設定に有効な手法です。
「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Oppotunity)」「脅威(Threat)」の頭文字をとったのが名前の由来になります。自社の強みだけでなく、弱みも一緒に分析することが可能です。
SWOT分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>SWOT分析とは? やり方・書き方やポイントを詳しく説明します
②3C分析
自社を取り巻く市場環境や競合関係を把握する手法です。対象となる買い手を明確にして、競合の長所と短所を把握し、さらにそれと比較した自社の長所と短所を把握します。
「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競争相手(Competitor)」の頭文字を意味しています。顧客に対する自社と競合他社との競争力の比較において、自社がどのフィールドで競っているのかを明確にするために用いる手法です。自社に成功をもたらすマーケティング分析の第一歩として、最も重要なフレームワークとなります。
③4C分析
マーケティング調査において自社の強みや弱みを整理するとともに、競合他社に対する顧客視点に立った情報収集に有益な分析ツールです。「顧客の価値(Customer Value)」「顧客の負担コスト(Cost)」「顧客の利便性(Convenience)」「顧客との対話(Communication」の4つの要素を軸として現状分析する手法です。
④PEST分析
自社を取り巻くマクロ環境(外部環境)が今後どのような影響を与えるかを把握・予測するために行います。
「Politics(政治)」「 Economy(経済)」「 Society(社会)」「 Technology(技術)」という4つの軸で経済情勢を捉え、市場における自社製品のサービスの展望を予測するためのプランです。
PEST分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>PEST分析の目的・やり方を解説|ITや飲食等、様々な業界で有用
⑤PDCAサイクル
多くのビジネスパーソンに馴染みのあるフレームワーク。「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(確認)」Act(改善)」という4つのサイクルで現状分析を行いながら物事を改善に向けてすすめていきます。PDACで大切なことはPlan(計画)の段階で目に見える目標数値を用意しておきます。Ceck(確認)においてその目標に到達しているか分析し、その結果に応じて改善を加えて行くことです。
⑥5フォース分析
フォースとは「脅威」という意味です。5フォース分析とは、下記の5つの外部環境の脅威に関する現状分析となります。
- 業界内での競争
- 新規参入
- 代替品(競合他社製品)
- 買手(顧客)の交渉力
- 売り手(サプライヤー)の交渉力
5つの関係について分析し、市場での競争力を高めるための手段を見出します。自社製品の収益に大きく関わることであり、自己分析をするにあたって必須の手法と言えます。
5フォース分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>5force分析の概要やメリット・やり方をわかりやすく解説
⑦4P分析
自社で販売する製品やサービスの販売を拡大するためのフレームワークです。自社と競合他社を比較しながら自社の製品をより深く理解し、製品やサービスの販売を促進するための手法を検討します。具体的には「Product(製品)」「 Price(価格)」「 Place(立地・流通)」「 Promotion(広告・宣伝)」をそれぞれ分析し、製品サイクルの成熟を促す方法を導き出します。
⑧バリューチェーン分析
顧客に製品やサービスの価値(バリュー)が届くまでの一連のプロセスを鎖(チェーン)と捉え、内部環境を自己分析するフレームワークです。製品やサービスの提供は、原材料の仕入等にはじまり消費者の元に届くまでがすべて一連の過程として繫がっています。どの局面で付加価値を生み出しているかを分析し、それを基に事業の競合に対する強みを導き出し、事業戦略に役立てます。
⑨MECE分析
新しい施策を展開するとき、そこに具体的な要素をいくつか挙げて、漏れや重複がないかを確認することで、有効な施策を展開できるようにします。問題点が複雑で大きいほど、論理的かつシンプルに分ける必要があります。この分け方に「漏れ」や「ダブり」があると問題を解決できなかったり、何度も同じことを考えることになったりと、とても非効率です。この非効率を回避するため、ビジネスでは重要な考え方になります。
⑩ロジックツリー
ロジックツリーとは、現在直面している問題点を解決するために用いるフレームワークのひとつです。問題点を起点に「どうやって」解決していくかを掘り下げていきます。その際、ひとつの考えを深堀するのではなく、枝葉のように分けながら掘り下げて行くことで、抜け漏れのない検討を行うよう促します。さらに「どうやって」だけでなく「なぜ」を掘り下げて要因分析を行うことも可能です。この場合もやはり大切なのはいくつかの選択肢を枝分かれして行き物事を考えることです。
現状分析の成果を得るためのポイント
事前に目的をはっきりさせる
現状分析をはじめる際、明確な目的を持って取り組むことがとても重要です。案外できていないことが多いのですが、この目的が明確になっていないとせっかくの分析が迷走してしまい役に立ちません。そもそも現状分析を行うバックグラウンドには何らかの課題や問題に直面しているからで、それに沿ってたどり着きたい先があるはずです。まずはその目的を明確にしてから、現状分析をはじめていきましょう。
仮説を立ててから分析する
仮説を立てず闇雲に情報収集をおこなってしまうと、大量のデータを収集することになってしまいます。仮説とは「おそらく今回の情報収集の結果はこうなる」と予測することです。その上で仮説に基づいた情報を収集すれば、膨大な量の情報を扱う必要がなく効率的です。ただし、決めつけはやめましょう。仮説は根拠がある上で成り立つ考えですが、決めつけは自身の感覚的な考えです。現状分析を決めつけで進めてしまうと、破綻するため、注意が必要です。
【まとめ】現状分析の意味・フレームワークを押さえよう
現状分析は経営戦略を考える上で大切な指針になる、いわば羅針盤です。この羅針盤が正しく機能していないと、目的地には到着しないどころか漂流してしまう可能性もあります。難しく考えず、今ある現状を正しく把握し、ゴールを定めて現状分析を行ってみましょう。現状分析には、フレームワークがとても効果的です。「抜け漏れがなく、重複なく、網羅的に」情報を整理できるフレームワークは現状分析を行う上で最も適切な手段と言えます。
また「現状分析は」一度定めたら変更できないものではありません。現状が変化するように、ゴールも変化していきます。それに合わせて何度でも現状分析を行い変化させていくこともとても大切だと言えます。